流れ星の正体

根暗な主人公がフジロックを目指す話

第3話 友達の正体

”ぶつからなきゃ伝わらないことだってあるよ。
例えば、自分がどれだけ真剣なのか、とかね”

ソードアートオンライン: ユウキ

 

 

 

太一は笑って答えた
「もしも盗んでたらお前はどうする?」

僕は体が石のように固まって動けなかった。

”許さない”なんて言葉が口から出てきたら1番いいもののそんなに僕は強くはない


太一が振り返って友達と帰ろうとすると

「まてよ、太一」
誰だ?

振り返ると生徒指導室に来ていたお金がなくなっていた被害者が何人も昇降口の後ろに集まっている。クラスは同じだがあんまり話さないので名前がわからない。

 

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「なんの話?。これからカラオケ行く予定あるんだけど邪魔しないでもらえる」

後ろの女子生徒が叫んだ

「ふざけんなよ、人の財布からお金抜いといて。全員体育の時間に抜かれてるんだよ、まさかから聞いたけどあんたらが1番最後に出ていたんだろ」

後ろにいたガタイのいい生徒数人が太一を取り囲んだ。


太一が半笑いで答えた

「なんだよ。なんなんだよ、お前ら友達だろ?」

僕は顔をうつ向けたまま小さな声で答えた。
「友達だよ、俺友達いないからわかんないけど、1人でいる時いつも気にかけてくれたり、苦手なグループ分けの時いつも誘ってくれて助けてくれたよな、だから」

続けて答えた。
「疑ってごめんね。多分俺、7万自分で無くしたんだと思う。ごめん」


もう信じるのは諦めよう、せっかく誘われたけどもうバンドは諦めよう、お金を簡単に無くしちゃうような屑人間だ。もうしばらく人には会いたくない


太一を囲んでいた、男の1人が言った
「悪いが少し財布見させてもらう、悪く思うなよ。友達だもんな」


「離せ、離せ、ふざけんなよ、犯罪だぞ」
太一の友達数人は気まずい空気になったのか早足で昇降口を後にした。

2、3分もみ合いになりながら太一は財布を奪われた。

「やめろよ…」

正樹がブレザーの中から来ていたパーカーのフードを被り、少し下を向きうつむきながら呟く

もみ合いは続く、ついに騒ぎを駆けつけたのか後ろから野次馬たちが増える。先生ももうすぐ来るだろ

「やめろよ…」
正樹の声は届かないまま、昇降口の潮騒は続く

ついに太一が男に手を出した。それが癇にに触ったのかもみ合いはもっと激しくなる

野次馬たちは面白そうに携帯のカメラを僕らに向ける

「もう、やめてくれ、頼む」
涙をこらえながら必死で絞り出した声は蚊が羽ばたくような声で、誰にも届かなかった。

もみ合いはまだ続く 

 

 

 

 

僕は太一の言った投げかけへの返す言葉を探していた。

「もしも盗んでいたらお前はどうする?」

僕は太一を許したいのか許したくないのかわからなかった。

わからなかったからこんなことやめてほしかった。
僕がバンドをこれから続けるにしても、辞めるにしても僕は彼と友達でいたかった、

もしも太一が最低なやつでも僕の中ではずっと味方だったし、僕は彼と友達でいたかった


拳と体が鈍くぶつかる音がする
後ろの方で誰かが笑っている声がする
僕の横で、お金を抜かれた人の無残な鳴き声がする


僕は最低だ。傍観者だ。きっとこれからも


もみ合いはまた数分続き、ついに太一の財布が奪われる

「友達だからさ、悪く思うなよ」
男がそう言い、財布のファスナーを開けた。

中から30万くらいの現金が出て来た。実際にはもっとあったのかもしれない。

 

太一は肩を下ろし、膝から崩れ落ちた。

「どういうことか説明してもらおうか、生徒指導室に行く前に俺らの前で。」

男が言った。

逃げようと起き上がった太一の退路をもみ合いに参加していた2人が塞ぐ

 

嘘だ。嘘だよこんなの。わかんないよ。どういうことだよ。


正樹の電話が鳴る、携帯の画面には”クロネコ楽器店”の文字がギターを買いたいって話を予約していた楽器屋からだろう。約束していた17時はとうに過ぎている。

着信拒否を押した。


パーカーのフードを掻き上げて小さなすり足で太一に近づいた。

「どけ」
僕が小さな声で呟くと取り囲んでいた男は一歩下がった。

 

太一の両肩に手を下ろして、呟いた。
「嘘だって言えよ、俺ら友達だよな。嘘だって言えよ、俺ら友達だよな?
なぁどうなんだよ。俺らって一体どうなんだよ。」

太一は両肩に降ろされた正樹の手を振り払った

 

僕は立ち尽くしたまま何も言えなかった


数十秒立ってやっと答えた

「俺やっと答え出たよ。さっきの答え」

「俺盗まれてても俺はお前とずっと友達でいたいよ、俺バカだからわかんないけどやっぱりなんだかんだでお前いいやつだもん、だからさ嘘だって言ってよ。それで全部済むんだから。」


太一は急に電話をかけた。
「もしもし、少し帰りが遅くなるからお母さん帰って来たら適当に食べといて」

太一電話を切る。多分兄弟だったんだろう。

 

パチーン

 

 

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太一は俺に近づいてビンタした 

 

 

 

 

 

 

パチーン


太一は僕の頬を思いっきりビンタした

だけど驚くほどに痛くなかった。


何か心の中でわだかまっていた感情の糸がほどけて目が覚めた気がした。

僕は今日出したどんな声よりも大きな声で叫んだ。


「言ってくれなきゃわかんねえよ!!!、俺バカだからさ。俺にもわかるように説明してよ!!!」


太一は昇降口のタイルに痰を吐いた。
そして小さく涙を流しながら言った

「そうだよ、俺が盗んだんだよ。」


後ろの野次馬たちがざわざわ言っている

'”マジかよ三年になってお金抜くとか最低だな”
”校内推薦も取り消しだし、学校もう辞めるしかないね”
”あのヒョロヒョロが嘘だって言ってよって言ったんだから、嘘だって言えばよかったのにね”

 

 

太一がその場にいる全員に聞こえる大きな声で叫んだ。

 

「ハッハッハ、馬っ鹿じゃねぇの?俺なんかに抜かれるお前らが悪いんだよ、いっつもいっつも揃いも揃って学校では先生とか友達にするようないい顔で俺に近づいて話しかけてくるし気持ち悪いんだよ

どうせ”ノート取らせて”とか”今度よければ遊びに行こう”とか馬鹿じゃねえの?頭の中、脳みそハッピーセットですか?


さっきからごちゃごちゃごちゃごちゃうるさいんだよ、なにが”友達だよな”だよ気持ち悪いんだよ

悪いけど正樹となんか友達になったつもりはないし俺は俺自身の株を上げるためにやっただけだよ。悪く思うなよ、それが俺のセオリーだ

悪いけど俺には友da………

 

ズン

僕は太一の頬にグーでパンチした。涙が止まらなかった。何回も何回もパンチした。20回くらい殴ったところでついに太一が倒れて崩れ掛かった、その上に馬乗りになって何回も殴った。


後ろでは携帯で撮影しているやつもいる。その場の空気が凍りついたように、お金を抜かれた他の連中は立ち尽くしたままなにもしなかった。

やっと先生がやってきて僕の肩を持って止めようとするが、僕は止まらなかった。


太一の少し日焼けした白い頬が赤紫になるころに僕は止められて生徒指導室に連れていかれた。
太一は保健室に連れられた後、職員室に連れていかれたらしい


その日のうちに抜かれたお金は戻ってきたがお金なんかじゃない大事な大事な心の穴は7万2000円ちょっとじゃ埋まらなかった。

 

 

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夕焼けは今日は赤かった。けど少し残酷な赤色だった

 

 

 

 

僕は次の日は学校をサボった。朝からあんまり好きでもないツリキャス配信者の放送を聞いてた

教師からの電話のショートメール送られてきたり、友達からLIMEが飛んできたりしたが全部無視した。


唯一バイト先には「インフルエンザになったので1週間休む」と電話した。


友達のLIMEを後々見返してみると、太一は学校を休んでいるらしい。

部屋にあったゼリータイプの栄養剤を飲んで寝てを繰り返して1日が過ぎた。


次の日も学校を休んだ。結さんに少し体調が優れないから今週末のギターの練習は休みたいと伝えた。

何かを悟ったのかこんなのLIMEが飛んできた。


「なんかあった?なんでも話聞くよ」ら
僕は怖くなって大丈夫ですと返した。

 


親が夕方帰ってきたら、急に部屋に入ってきた。

「あんたのクラスに太一って子がいなかったっけ?昔から正樹が仲よかった」

「ああ、いるけど」

母親が買ってきたばかりのコンビニの夕刊を手渡した。

 

高田馬場で通り魔発生!2人死亡、10人重軽傷。犯人は都内の高校3年生 ー

今日午前10時半頃高田馬場駅前ロータリーにて鈍器のようなものを急に振り回して殴りつけ、2人を死亡、10人を重軽傷させた疑いで 東京千代田区在住の高校三年生 の少年を逮捕した。少年は 全部どうでもいいと思ってやったと供述している。警察は動機や事件に至った経緯などを慎重に調べている

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「これニュースになっていると思うけど、太一くんの家がマスコミとか報道陣に囲まれているの、テレビにもお母さんがモザイクで映ってたし。。。」


僕は豹変してしまった彼の姿になにも言うことができなかった。


「お母さん、ごめん、1人にさせて」

そう呟くと、母親は何かを悟ったのか静かに部屋を出て行った。


今日も一日中寝ていたがお腹は全然空かなかった。
お腹は全然空かないのに、満たされないの心に大きく開いた穴だった。


僕はまだ考えていた、あの時太一が俺のことをビンタした本当の意味を僕はまだ知らなかったんだと思う


親が寝た10時半ころ、僕は1人でコンビニに行った。やっぱりどの新聞も通り魔のことについて話題にしている。

友達からのLIMEはずっと既読無視していたが、全員に同じ内容を返すことにしよう


”明日は学校に行くから、心配しないで”

風が強く吹いた
 

 

 

 

 

 

 

”何も言わないのが、優しさだって思ってたんだよ”

僕の好きな kalff ってバンドの曲の歌詞が脳裏に浮かぶ。


1時間目が始まるのでイヤホンを外す。
授業をまともに受ける気はさらさらなくて今日も腕枕で授業を受ける


そろそろ受験対策の内容も増えて行くと言うのに体がついていかない。
隣の席の舞子が肩をトントン叩いて僕に呟く。

「次、刺されるよ、問2の3だから」

そう言うと舞子はまた前を向く

 

木下 舞子、部活は書道に入ってる。僕のクラスでは人一倍面倒見が良くてみんなからは”姫”と呼ばれている。小さな背の割に大きなポニーテールがよく似合う。


僕は焦ってその問題を解いて答える


僕はノートの切れ端に”ありがとう、姫”と書いて手紙の形にして隣の席に飛ばす。

 


休み時間になると数人が心配してくれて僕の席に色々お菓子やら飲み物やら持ってきてくれた。
僕は友達とかが本当にいなかったのでこの機会に連絡先を聞いたり、何気ない会話をして少し楽しかった


遠目で舞子も嬉しそうな顔をして微笑んだ。

 

みんなは太一のニュースについては何も触れなかった。廊下を歩くとたまにその話題を聞く

4時間目になってからやっと気づいた。
太 一の席が教室から消えている。


なんかどうしようもなく悲しい気持ちになった。


いつも1人で食べて、たまに太一と弁当を食べる僕は今日も1人で弁当を食べることにした。

けど、それを気にかけてくれたのか姫が四時間目終わってから声をかけてくれた。

「よかったら今日ご飯一緒に食べる?私も話したいことあるし」

僕はなんかうまく言葉にできなくて

「僕なんかでよかったら。」


そんなこんなで今日は舞子と席をくっつけて今日はご飯を食べることにした。

話して行くうちに月曜日のことを色々と話してしまった。

「なんで学校に七万なんて持ってきたの?

「笑わないって約束してくれるなら言う」

「笑わないから」

少し息を吸った

バンド組むことになって、ギター買いたいって思って」

舞子はお茶でご飯を流し込むと小さな声でクスクス笑った
「マサキがバンドって 本気?」
舞子がクスクス笑った


僕もなんかおかしくなって一緒に笑った

笑うたびに大きなポニーテールが小さく揺れて、すごい優しい匂いがした

ちょっと舞子のことが好きになった 

 

 

 

第2話 犯人の正体

”人は手に入れているものより、期待するものを喜ぶ”
ジャン=ジャック ルソー

 

 

 

 

「こんな感じでいいですか?」
「もう少し襟足を短くお願いします」

僕は床屋に来ている、土曜日の朝一だ。
やっぱり朝が弱いけど、もちろんツリキャスのせいじゃない、最近バイトを始めたんだ

もともと学校終わったらゲームセンターに行くか家に帰って録画していたアニメを見るのが日課だった僕にとっては大きな変化だ

それよりも大きな変化はギター経験もそんなにない僕がバンドに誘われ、この後も結先輩の家にギターを練習しに行くんだ

学校ではいつも通りに振舞って、放課後や土日は別の人格で振る舞う、正直最近ストレスがすごい。

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襟足がだんだん短くなって来た
「はい、終わり。お疲れ様。」
そんな最近の事を考えていたら気づいたら終わっていた

「ありがとうございました」
そう言って店を出て、メールで教えてもらった先輩の住所を携帯で探して歩き始めた。
どうやらここから歩いて300mくらいのところにあるみたい


もしバンドをやっているなんて友達にバレたらどう思われるだろうか。「すごいね」「頑張ってるね」「応援してるよ」そう言ってくれる人がいくらいるだろうか?

バンドをやっている人を一歩引いて見てしまう人間はきっと少なくない。僕だけじゃないはずだ

中学や高校の友達に見つからないように周りに気を配りながら、狭い住宅街を行ったり来たりした。

「えっと、あいかわっ……と、この辺だよな?…」

「あ、見つけた」

白壁の小さな2階建ての一軒家に表札の”相川”の文字。僕の家はマンションだったので少しだけびっくりした。

インターホンを押したらすぐに先輩は降りて来た
「お疲れ様~迷ったでしょ?、どうぞ上がって」
迷ってねえよ、と心の中では少し強がっていたが何も言わず2階の結さんの部屋に入って行った

 

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それから2時間くらいギターを弾いたり、ノートを開いて音楽理論の勉強をした。なにかをずっと続けることが苦手な僕にとってはすごい苦痛なことだった。こういうのが楽しいって思えるほど本気にはまだならないのかもしれない

そんな僕の顔色を悟ったのか結先輩が
「疲れたよね?そろそろ休む?、下から甘いもの持ってくるからしばらくその辺でゆっくりしてて」

先輩は部屋を出て行った

こういう時に人の部屋の中をジロジロと見るのは悪いことだが、つい色々と見入ってしまった

ガタン
物音がした 

 

 

 

 

 

ガタン
物音がした

本棚から写真立てがおちた音だ
「これは…先輩?」
写真に写っているのはライブハウスでアコースティックギターで弾き語りをしている結さんの姿だ、少し若い。

階段を上がって来る音がした
僕は急いで本棚に写真立てを戻した

「お疲れ~待たせた?」
「いやいや、待ってないですよ、そういや先輩に聞きたいことが1つあって…」

結さんは不思議な顔をした
「ん?」
「どうしてベーシストなのにそんなギターとかギターボーカルにこだわるんですか?そうじゃないとこんな真剣に赤の他人に教えてくれないし」
「赤の他人なんかじゃないよ、もしかしてだけど…」

その場の空気が止まった

「…みた?写真立て」

度肝を突かれた
「いやいやいやいや、なんというかなんというか、ベースもできて、、、ギターもできるなんてすごいじゃないですか!ベーシストの部屋なのにアコギとエレキがあるなんてやっぱりなんかすごい人なのかなって」

焦ってちゃんとした言葉が出てこなかった


「見たんだね、まあいいよ。隠しておくつもりはなかったし。昔弾き語りやってたんだ、その繋がりで友達4人と集まってバンドを組んでたんだよ」

「なんで辞めちゃったんですか?」

「なんでというかなんというか、機材泥棒って言葉わかる?」

「機材ってギターだけじゃないんですか?」

「いやいや、バンドにはギターの他に、シールド、エフェクター、マイクとかなんかも機材で、リハーサルが終わったら楽屋に荷物を置いておくのね」

「はい、そこでですか?」

「うん、その時のベースが使っていたエフェクターが盗まれて、5万くらいするほんとに高いのだったんだ、ライブが終わった後他のバンドのやつが盗んだってことに気づいて、ベースのやつの怒りが止まらなくて、ライブハウスを信用できなくなったんだろうね、辞めちゃったよそいつは」

「でも他のメンバーは?」

「他のメンバーもその流れで全員、、、、その時思ったんだ。ギターボーカルで作詞作曲をやってた俺はバンドの中のリーダーにならなきゃいけない。なにか問題があったらそれを解決して運営して行くのがフロントマン、リーダーとしてその責任を果たせなかった、だからギターボーカルはやめたんだ」

写真立てに写ってた結さんの姿はすごい楽しそうだったのに、今の結さんは何か心の中に尖ったものを隠していそうで怖かった。

 

 

 

 

 

結さんが唐突に聞いてきた。
「友達の頼みってなんでも聞いちゃうタイプ?」
僕は少し悩んで答えを返した
「僕友達なんていないんでわからないです」

少し黙って結さんが言った

「正樹くんのいいところは信じて疑わないところ、けどそれが君の弱いところ」
僕は結構疑ってかかるタイプだけどどういうことだ?イマイチ答えが出てこなかった

「のちにわかるよ、夕方になってきたしもう終わりにしようか?」

その後に少し話した気がしたが覚えてない、僕は歩いて家に帰った、家に帰りながらずっと言葉の意味を考えていた。


家に帰るやいなや、ご飯も食べずに携帯の通知が来ていた「ツリキャス」を聞いていた。

「マサキ~ご飯よー」
お母さんの声がする、さっさとご飯を食べて配信を聞くとするか。
大好きな配信者「にっしー」の今日の配信企画は「凸待ち」だ。僕も一回だけ参加したことがあるが、配信サイト内の機能を使ってリスナーが配信者と通話ができる機能だ。人気の配信者だけあってなかなか通話することはできないが、今日先輩から言われたあの事で相談したくてご飯たべた後すぐに配信に潜って深夜過ぎまで粘ってみた

僕のハンドルネームは 「平成のカイジ」だ

にっしー「じゃあ今日の最後の凸待ちとしましょうか、じゃあコメント番号12540番の子に凸しようかな?」

さすがにこれで無理なら諦めよう。結局1人で考えれば済む事だ。

「コメント番号12540番、平成のカイジくん!上がってきていいよ」
コメント欄がざわつく

”ハンドルネームカイジとかwww”
”え、カイジ?誰?”
”上がってくるなよ害児、あ、カイジw”

うるさいうるさい、
「もしもし、平成のカイジです、にっしーさんですか?」
にっしー「そうですよ~、今日はどんな内容ですか?、口喧嘩?恋愛相談?歌?性癖暴露?」

僕「相談で…」
その後かくかくしかじか今日あったことを話した。

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にっしー「信じて疑わない事って裏目にでる事ってあるよね?例えばクラスの中で1番頭が良くて、運動できるやつとかでも影で悪口言っていたら、君の事「友達だよ」って言ってる奴が影で君の事笑い者にしてたり」

「そっかぁ…」

「ネガテイブに考えることはないよ、例えばの話だから!今日話凸してくれてありがとね」

携帯の電源を切った

時計は午前3時を過ぎていた。
やばい、このままじゃ寝坊

 

 

 

 

 

2日後の月曜日。
今日は久々に朝早く起きた。
学校の近くのコンビニのATMに寄るためだ


今日はバイト先の給料日。ギターを買うためにバイトをたくさん入れたので給料には自信がある。

さてどのぐらい入ってるかな
淡々とATMのボタンを押していく。
”7万2510円”

「やったぁ、買えるぞ」
店の中で小さな声でガッツポーズをした

なんだかんだで少し遅刻気味だったので急いでお金を下ろして学校に向かった。


それもあって1時間目と2時間目はぐっすり眠った


3時間目は体育だ。4月にしては季節外れのマラソン大会の練習と先生は謳っているがやっぱりおかしい

気づいたら休み時間後半だ。
僕は鍵当番なので出る前、最後に教室の鍵を閉めなきゃいけない。

まだ3人くらい残っている。

太一だ。

太一と友達数人だ。太一はクラスの人気者で、運動も得意で、女子にもモテる。僕みたいな人間の敵だ

勇気を出して声をかけてみた。

 

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「あの、まだいますか?」


「あ、マサキくん鍵当番だっけ?、俺ら少し用事あるから鍵渡してくれたら閉めとくよ、わざわざごめんね」


「あ、ごめんね。ありがとう」

太一に鍵を渡した。

まぁいいやと思い教室を出ようとすると

「そういや、正樹の席ってここだっけ?」

太一が僕の机の脇に立って言った。


「そうだけど?」

「いやいや聴いてみただけ、ありがとね」

なんだったんだ、とりあえずもう鐘がなって授業が始まってあるはずだ。急いで校庭へ向かおう。


そんなこんなでマラソン大会の練習は終わった。もともと長距離やってたってもあって半分よりも上だったが、バイトの疲れでヘトヘトだった。

疲れて座れこんでいるところを太一が手を取ってくれた。


太一とはそこまで仲がいいわけではないが、中学高校とほとんど同じクラスだった。学級委員長をやっているのが多いキャラだったので根暗な僕にいつも気にかけてくれた。


そのリターンとして、たまにする太一のお願いを聞いてあげるのが僕と太一の中での暗黙のルールである。

そう、僕と太一の中にはそれしかなかったのだ

ほんとにそれしか

 

 

学校が終わるまでは何もなかったのだ。


帰りのHR、急に教室のスピーカーが鳴り出した。

「3年1組、大原正樹。3年1組、大原正樹。至急生徒指導室まで来るように、以上。」

 

 

 

 

 

 

急いで生徒指導室にいくと何人かの生徒が僕のことを待っていたかのように立ち尽くしていた

「呼ばれた理由わかるよな?」
生徒指導の先生が表情を曇らせる

「なんのことですか?」

生徒指導室に雷が落ちた
「とぼけるんじゃねぇ、何人ものお前のクラスのやつがお金を抜かれたって言ってるぞ。しかも体育の時間だ。
お前は鍵当番だと聞いているんだが、その場に及んで盗みを働くっていうのはどういうつもりだ」


僕は怒鳴られるのに慣れていないので図星を突かれていないのに、図星を突かれたような表情になり、言い返す言葉も出なかった。

「じゃあ、僕が盗んだんだったら、僕の財布の中にお金が入っていますよね?財布の中見せますか?」

途端に浮かんだ言葉が出てきた


僕はバックの中の財布を開いた

「え」

「どうした早く見せてみろ」


「僕の財布の中のお金も抜かれてるんです、今日ギターを買うために70000円くらいATMで下ろしたんです。」

生徒指導の先生が呆れた顔をした。

「お前と同じ1組の三雲太一がお前が盗んだって言ってたぞ。それはどういうことだ?」

「僕は彼が教室出る前に、用事があるからって少し残るからって言っていたので彼に鍵を渡した んです」


生徒指導の先生が余計呆れた顔をした。
生徒指導室の中の空気がざわざわしていた。

これはどういうこと?
太一が盗んだってこと?

そんなわけないじゃん、
俺中学の時不登校になった時毎日家にノート持ってきてくれてたじゃん。
弁当忘れて何も食べるものなかった時、弁当半分分けてくれてたじゃん

友達いなくて修学旅行の班が1人だった時誘ってくれてたのも太一じゃん

嘘だ嘘だ嘘だ

とっさに口から言葉が出た

「太一は盗んでないと思います。きっと他に犯人がいるんだと思います。本人に直接聞いた方が早いので、確認してきます」

僕は教室に向かって走った。

気づいたらホームルームは終わって教室には誰もいなかった。

まだ昇降口にはいるはずだ、3階から急いで階段を飛びかけた。

昇降口には太一の姿がいた。友達3人で集まって帰るとこだ。

「ねえ、太一くん、聞きたいことがあるんだけど?」

「何?」

「みんなの財布からお金とったりなんてしてないよね?」

太一は笑って答えた
「もしも盗んでたらお前はどうする?」

 

 

 

 

 

第1話 口下手の正体

第1話  口下手の正体

 

 

 

 

 

 

 

「お~い、おい起きろ」
外には桜が散っていた
先生の声だ、昨日の疲れが出ていたのかすっかり寝ていた。昨日はツリキャスの好きな配信者の放送を夜遅くまで聞いていた

気づけば英語の時間はもう残り10分
前の席の子と隣の席の子が笑っていたのでどうにか察しがついた
多分僕は寝言言ってたか、いびきをかいていたか

僕の名前は 大原 正樹 (おおはら まさき)高校3年生、身長は普通、痩せ型、部活は入っていないが生徒会の幽霊役員をやっている、友達もあんまりいるわけでもなくて、勉強はそこそこできる方
まあ、クラスのカーストの中では底辺まではいかないものの、これと言って特技もなく休み時間は机に伏せて寝ながら音楽を聴くのが趣味だ


そんなこんなで気づけば学校が終わっていた。誰からも話しかけられることなく、話しかけられたとすれば英語の先生にこっぴどく怒られたくらいかな

まぁ俺はこれでいい、何か1つのものに長けた主人公気取りの目立つキャラになりたいわけでもなかった

学校の最寄り駅から家の最寄駅までは25分、急行と各停を乗り継いで 代々木上原で乗り換えする。

途中下北沢駅のドアが開いて3人の女の子が乗ってきた
バンドマンだ、1人はギター、1人はベース、もう1人は何も楽器を抱えてない。ファンの子かスタッフの子かな

「今日リハでやったあの曲、ハイトーン過ぎて歌えないわ」
「あの曲は原曲がもともと高いからみんな無理だよ」
女の子達が楽しく談笑している

また始まった僕の嫌いな会話。
「これだから…」
僕は小さく呟いた

高校一年生の時僕をいじめていたのも、クラスの人気のバンドマン、中学の頃僕のことを村八分にしたのも

多分僕は捻くれいる、みんながみんなそんなはずはない。「人生の負け犬の遠吠え」だってわかっているけどやっぱり僕はあの女の子達がどんな音楽をやってるかは知らないけど、僕はああいう奴らを卑下してしまう。

お母さんからラインが来た。
"今日は遅くなります、適当に冷蔵庫のもの食べておいてください"
今日は寄り道して帰ろ
そんなこんなで渋谷に降り立った

たまたま通りかかった道に楽器店があった、ギターは音楽の時間とかでもともと弾いていたし

ギターなんて買うお金もないし、店員さんが次に回って来たら帰ろうかな
そう思ってたその時後ろから声がした

「ねぇねぇ、君バンドって興味ある?」

 

 

 

「ねぇねぇ、君バンドって興味ある?」
あるわけねぇだろ、まぁ楽器屋で試奏してれば誤解されるのは当たり前か

僕は焦って「え、えとおたくはどちらで?」

やべぇやらかした、ここで答えるべきなのはYES か NO か何でこんなこと答えちまったんだよ

「あ、自己紹介が遅れてごめんね。都内の大学に通ってる 相川結 (あいかわゆい)19歳、ベースやってるんだ、君は?」

ゆい?女の子っぽい名前だか間違えなく男だ、こりゃ失礼。少し緊張がほぐれたみたいでぼそっと無愛想に答えた

「大原 正樹、17歳、えっと高校3年生」

「そっかぁ若いんだね、今弾いてるそのギターでなんか弾いてみてよ」

「えー。ちょっと、それは、だって音楽の授業で少し弾いてただけですし…」

「いいからいいから!」

僕は手に持ってたギターで軽く最近CMタイアップで話題のあの曲を弾いて歌ってみた。人前で歌うのは初めてだし、そもそもギターを弾きながら歌ったのも初めて

きっとこういう押し付けがましいこの態度だからこの人もバンドマンだ、きっとそうだ
なんか嫌気がさして、もう帰りますって言おうとした時


「よかったらうちのバンドのスタジオ練習みていく?この近くのスタジオだから」

「え、なにをいってるんですか?」
思わず口が開いてしまった、この口が開くと怒られたり何か反論されたり、下手なこと言ったりだから僕は自分のこの口が嫌いだ

とりあえず謝らないと

「まあ、急に誘われても困るよね、邪魔して悪かったね、じゃあまた」

結さんは立ち去った、僕は店員さんに声をかけて試奏していたギターを預けた。
楽器屋なんて滅多に来るわけもないし、また会えるわけもないやん、やっぱバンドマンは

帰り道は電車に乗らず歩いて帰った。
僕はほんとはバンドマンになれない自分が悔しくて仕方がないのかもしれない、ギターを弾いているだけなら弾き語りでもいいはずだ、もちろんそんなのには興味ないんだけど

気づいたら夕焼けは沈んでた、今日はやけに疲れた、やっぱり僕にはあんな派手な輩とは釣り合わない、もう勘弁だ、こんな性格の僕が人と関わるとろくなことがない、もう楽器屋には行きたくないな


「はぁ、やっぱり僕には無理だ」
ため息を吐き出して、今日は何にも食べずに布団に入った

 

 

 

 

 

昨夜もツリキャスの配信を聴いてた、高校3年生で趣味のない僕でも放送のある日は毎晩聴いている。

今朝も寝坊だ。朝食を食べる時間もなかったので急いで駅へ向かった。

情けない、情けない、こんなんじゃダメだ

学校に行けば今頃朝のホームルーム前に同じクラスの子は今頃進路指導室で進学や就職の準備をしている。

そんなこと考えながら
「とりあえず都内で進学できたらいいかなぁ」
意欲がないというわけではないが、僕には夢がない

昔続けていた陸上もうまくいかなかったし、もともと人付き合いが上手いわけでもないから新しく何かを始める気にもなれない、勿論ギターもそんなに上手いわけではないし歌も上手いわけではない

とりあえず人並みに勉強して、いい大学に進学して、人並みに就職してそういうのがいいのかなとたまに考える

朝のホームルームにはギリギリ間に合った、自分の机の近くにはいつもクラスの人気の連中が集まって談笑していた、そして僕が来たのを悟ったのか元いた席に戻っていった

何か起きるように期待して、なにも起きない日常を悔しがった

今日も授業のほとんどを寝て過ごした、ノートを取るためだけに顔を上げて、あとはそんな現実から顔を伏せるためだけに顔を伏せて眠った

こんな夢のない僕をみて父親は「もうすぐ成人なんだから遊んでばかりいないでしっかりしろ」と言う、先生は「何か1つやりたいことを見つけて好きなことをやれ」という、数少ない友達は「お前はまだ進学先とか決めてないの?やばいよ?もう半年しかないんだよ?」


わかってるよ、けど僕はこのままでいいや

今日はゲーセンに行くために帰りは途中の駅で降りた。携帯ゲームとか家庭用ゲーム機は高いからっていうのもあってゲームセンターをよく利用している

パチンコ中毒になった人の如く、僕は店に唯一2台あるリズムゲームにのめり込んだ。
なんどもなんども流れてくるマークをリズムよくタップして日々のどうしようもない感情のはけ口にした

気づいたらスマホの時計は23時を過ぎていた
帰りの電車で揺られて自分の家の
最寄駅についた

電車のドアを抜けて改札に向けて歩いているとホームの北側の端に1人の男性が電車がもう過ぎた空っぽのホームを前に立ち尽くしてるではないか

嫌な予感がする

♪ 「間も無く急行電車が参ります~危ないですから黄色い…」
男性はホームに飛び込んだ 

 

 

 

 

♪「間も無く急行電車が参ります~危ないですから黄色い線の内側でお待ちください」

静かなホームにアナウンスが流れた
僕は疲れた足で駆け寄ったが電車のスピードまでは追いつけなかった。

電車は鈍い音をして止まった

20分もしたら電車の周りに駅員さんや近くの警察も集まって来た。僕は第1発見者として警察の方の事情聴取に淡々と答えていった

「なんで簡単に死んじまうんだよ」
誰もいない夜に呟いた

夜も遅いので警察の人が送ってくれるそうだ
それまで駅の改札の中でしばらく待っていた。

「あ、あの時のギターの子?」
聞き覚えのある声がした?

結さんだ

「どうしてここにいるんですか?」

「実はこの辺住んでてね、電車降りたあと急にホームの端に走っていく人の姿をみて、楽器屋でギター弾いてた子だなって思って声かけたんだよ」

しばらく沈黙が流れる

「なんで飛び降りたんですかね?話聞いてたら20代前半で、大手上場企業に就職して、若いのに奥さんもいたんですよ、人生の成功者じゃないですか?」

結さんは少し笑って言った

「糸が切れちゃったんじゃない?やっとのやっとで繋いできた生活とか仕事、愛情の糸」

僕は芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を思い出した
地獄に落ちたカンダタが生前に一度蜘蛛を助けたという善行を思い出した釈迦がカンダタに天から糸を垂らした。
しかしカンダタが「この糸は自分のものだ」
そう呟いたら真上で糸が切れてしまった

僕はカンダタだ。たった一回のチャンスを自分のわがままとか性格、意欲がないせいで全部ダメにしてしまう

僕のこみ上げていた感情が溢れてきた
僕の悪い口から


「飛び降りたいのはこっちの方だよ!何が糸が切れただよ、高3の俺にはわかんねえよ。親も先生も友達もわけわかんないことばっか抜かしやがって、暴力を振るってるのに笑って過ごしてるやつはいるし、先生に媚を売ってうまくやってる奴もいるし、みんなほんとにやりたいことをやってるのかわかんねえよ、これ以上僕が頑張ったって傷つくだけなんだ。もう生きてくのはこりごりだよ」

無自覚にも涙が溢れてきた

警察の人が呼びに来た、時間だ
もう結さんには2度もこんなこと言っちゃったし嫌われたな、バカだよ俺

「そんな強い気持ちがあるんならバンドやろうよ、パンクロック、正樹くんには合うと思うよ」

風がびゅうって吹いた 

 

 

 

 

「え、僕なんかとですか?」

「そう、初めてギターを弾いてるのを楽器屋で見た時、なんかすごい楽しそうに弾いてたからそれもあるし」

僕は頭を掻きながら言った
「全然曲とか作っとかないし、そもそも人前苦手な僕がギター弾きながら歌えると思いますか? カラオケとかも一度も行った時ないんですよ」

「これからやればいいよ、作詞作曲もギターもカラオケも」

否定する言葉が見当たらない、僕は頭の中で必死に言葉を探した

「だって僕にはやりたいことがないんですよ、そもそも目標見つけても達成できるかわかんないし」

結さんがすこし険しい顔をした

バックの中から紙を取り出した
それを結さんは僕に渡した

「ふじさんろっくふぇすてぃばる?」

結さんの顔が少しにこやかになった

「そうそう、ロックバンドの中でも結構大きなイベントで、君の好きな〇〇ってバンドも出るんだって、目指してみない?」

少しふてくされて僕が言った

「結さんらやってるバンドはどうするんですか?メンバーもそもそも集まってないのにどうするんですか?」

結さんがいつも以上に笑った顔で言った

「これからゆっくり集めていけばいいよ、焦る必要なんてないし、完成形。完成形を大事にしよう」

いつもはどうしようもなく嫌いになってたバンドマンが少しだけ信じられるようになってた

 

警察の人が痺れを切らして声をかけて来た
「ちょっと君たち、早く帰らないとだからそろそろ終わりにしてね。大原くんだっけ?送っていくから駅の東口の駐車場にいってるから声かけてね」

結さん「怒られちゃったね、じゃあ電話かメール交換しようか?連絡先交換できる?」

この日、親と先生と中学の数少ない友達の他に久々に電話帳の連絡先の文字が増えた。パトカーの中で携帯の連絡先の画面の何回も開いたら閉じたりしていた。

やっとだ、やっと始まるんだ。今本当にやりたいことかどうかはわからないんだけどちょっとでもやりたいことが見つかって、自分の本当の気持ちを受け止めてくれる人が増えた


とりあえず今やることはバイトすること、コンビニでも飲食でもいい、バイトしてギター買うんだ。高いのは無理だけどなるべく迷惑かけないように少し高いギター買うんだ
バイト応募サイトを何件も開いてバイトを何件も申し込んだ

気づいたら朝になってた
今日は早めに電車に乗ろう
いってきます