流れ星の正体

根暗な主人公がフジロックを目指す話

第3話 友達の正体

”ぶつからなきゃ伝わらないことだってあるよ。
例えば、自分がどれだけ真剣なのか、とかね”

ソードアートオンライン: ユウキ

 

 

 

太一は笑って答えた
「もしも盗んでたらお前はどうする?」

僕は体が石のように固まって動けなかった。

”許さない”なんて言葉が口から出てきたら1番いいもののそんなに僕は強くはない


太一が振り返って友達と帰ろうとすると

「まてよ、太一」
誰だ?

振り返ると生徒指導室に来ていたお金がなくなっていた被害者が何人も昇降口の後ろに集まっている。クラスは同じだがあんまり話さないので名前がわからない。

 

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「なんの話?。これからカラオケ行く予定あるんだけど邪魔しないでもらえる」

後ろの女子生徒が叫んだ

「ふざけんなよ、人の財布からお金抜いといて。全員体育の時間に抜かれてるんだよ、まさかから聞いたけどあんたらが1番最後に出ていたんだろ」

後ろにいたガタイのいい生徒数人が太一を取り囲んだ。


太一が半笑いで答えた

「なんだよ。なんなんだよ、お前ら友達だろ?」

僕は顔をうつ向けたまま小さな声で答えた。
「友達だよ、俺友達いないからわかんないけど、1人でいる時いつも気にかけてくれたり、苦手なグループ分けの時いつも誘ってくれて助けてくれたよな、だから」

続けて答えた。
「疑ってごめんね。多分俺、7万自分で無くしたんだと思う。ごめん」


もう信じるのは諦めよう、せっかく誘われたけどもうバンドは諦めよう、お金を簡単に無くしちゃうような屑人間だ。もうしばらく人には会いたくない


太一を囲んでいた、男の1人が言った
「悪いが少し財布見させてもらう、悪く思うなよ。友達だもんな」


「離せ、離せ、ふざけんなよ、犯罪だぞ」
太一の友達数人は気まずい空気になったのか早足で昇降口を後にした。

2、3分もみ合いになりながら太一は財布を奪われた。

「やめろよ…」

正樹がブレザーの中から来ていたパーカーのフードを被り、少し下を向きうつむきながら呟く

もみ合いは続く、ついに騒ぎを駆けつけたのか後ろから野次馬たちが増える。先生ももうすぐ来るだろ

「やめろよ…」
正樹の声は届かないまま、昇降口の潮騒は続く

ついに太一が男に手を出した。それが癇にに触ったのかもみ合いはもっと激しくなる

野次馬たちは面白そうに携帯のカメラを僕らに向ける

「もう、やめてくれ、頼む」
涙をこらえながら必死で絞り出した声は蚊が羽ばたくような声で、誰にも届かなかった。

もみ合いはまだ続く 

 

 

 

 

僕は太一の言った投げかけへの返す言葉を探していた。

「もしも盗んでいたらお前はどうする?」

僕は太一を許したいのか許したくないのかわからなかった。

わからなかったからこんなことやめてほしかった。
僕がバンドをこれから続けるにしても、辞めるにしても僕は彼と友達でいたかった、

もしも太一が最低なやつでも僕の中ではずっと味方だったし、僕は彼と友達でいたかった


拳と体が鈍くぶつかる音がする
後ろの方で誰かが笑っている声がする
僕の横で、お金を抜かれた人の無残な鳴き声がする


僕は最低だ。傍観者だ。きっとこれからも


もみ合いはまた数分続き、ついに太一の財布が奪われる

「友達だからさ、悪く思うなよ」
男がそう言い、財布のファスナーを開けた。

中から30万くらいの現金が出て来た。実際にはもっとあったのかもしれない。

 

太一は肩を下ろし、膝から崩れ落ちた。

「どういうことか説明してもらおうか、生徒指導室に行く前に俺らの前で。」

男が言った。

逃げようと起き上がった太一の退路をもみ合いに参加していた2人が塞ぐ

 

嘘だ。嘘だよこんなの。わかんないよ。どういうことだよ。


正樹の電話が鳴る、携帯の画面には”クロネコ楽器店”の文字がギターを買いたいって話を予約していた楽器屋からだろう。約束していた17時はとうに過ぎている。

着信拒否を押した。


パーカーのフードを掻き上げて小さなすり足で太一に近づいた。

「どけ」
僕が小さな声で呟くと取り囲んでいた男は一歩下がった。

 

太一の両肩に手を下ろして、呟いた。
「嘘だって言えよ、俺ら友達だよな。嘘だって言えよ、俺ら友達だよな?
なぁどうなんだよ。俺らって一体どうなんだよ。」

太一は両肩に降ろされた正樹の手を振り払った

 

僕は立ち尽くしたまま何も言えなかった


数十秒立ってやっと答えた

「俺やっと答え出たよ。さっきの答え」

「俺盗まれてても俺はお前とずっと友達でいたいよ、俺バカだからわかんないけどやっぱりなんだかんだでお前いいやつだもん、だからさ嘘だって言ってよ。それで全部済むんだから。」


太一は急に電話をかけた。
「もしもし、少し帰りが遅くなるからお母さん帰って来たら適当に食べといて」

太一電話を切る。多分兄弟だったんだろう。

 

パチーン

 

 

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太一は俺に近づいてビンタした 

 

 

 

 

 

 

パチーン


太一は僕の頬を思いっきりビンタした

だけど驚くほどに痛くなかった。


何か心の中でわだかまっていた感情の糸がほどけて目が覚めた気がした。

僕は今日出したどんな声よりも大きな声で叫んだ。


「言ってくれなきゃわかんねえよ!!!、俺バカだからさ。俺にもわかるように説明してよ!!!」


太一は昇降口のタイルに痰を吐いた。
そして小さく涙を流しながら言った

「そうだよ、俺が盗んだんだよ。」


後ろの野次馬たちがざわざわ言っている

'”マジかよ三年になってお金抜くとか最低だな”
”校内推薦も取り消しだし、学校もう辞めるしかないね”
”あのヒョロヒョロが嘘だって言ってよって言ったんだから、嘘だって言えばよかったのにね”

 

 

太一がその場にいる全員に聞こえる大きな声で叫んだ。

 

「ハッハッハ、馬っ鹿じゃねぇの?俺なんかに抜かれるお前らが悪いんだよ、いっつもいっつも揃いも揃って学校では先生とか友達にするようないい顔で俺に近づいて話しかけてくるし気持ち悪いんだよ

どうせ”ノート取らせて”とか”今度よければ遊びに行こう”とか馬鹿じゃねえの?頭の中、脳みそハッピーセットですか?


さっきからごちゃごちゃごちゃごちゃうるさいんだよ、なにが”友達だよな”だよ気持ち悪いんだよ

悪いけど正樹となんか友達になったつもりはないし俺は俺自身の株を上げるためにやっただけだよ。悪く思うなよ、それが俺のセオリーだ

悪いけど俺には友da………

 

ズン

僕は太一の頬にグーでパンチした。涙が止まらなかった。何回も何回もパンチした。20回くらい殴ったところでついに太一が倒れて崩れ掛かった、その上に馬乗りになって何回も殴った。


後ろでは携帯で撮影しているやつもいる。その場の空気が凍りついたように、お金を抜かれた他の連中は立ち尽くしたままなにもしなかった。

やっと先生がやってきて僕の肩を持って止めようとするが、僕は止まらなかった。


太一の少し日焼けした白い頬が赤紫になるころに僕は止められて生徒指導室に連れていかれた。
太一は保健室に連れられた後、職員室に連れていかれたらしい


その日のうちに抜かれたお金は戻ってきたがお金なんかじゃない大事な大事な心の穴は7万2000円ちょっとじゃ埋まらなかった。

 

 

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夕焼けは今日は赤かった。けど少し残酷な赤色だった

 

 

 

 

僕は次の日は学校をサボった。朝からあんまり好きでもないツリキャス配信者の放送を聞いてた

教師からの電話のショートメール送られてきたり、友達からLIMEが飛んできたりしたが全部無視した。


唯一バイト先には「インフルエンザになったので1週間休む」と電話した。


友達のLIMEを後々見返してみると、太一は学校を休んでいるらしい。

部屋にあったゼリータイプの栄養剤を飲んで寝てを繰り返して1日が過ぎた。


次の日も学校を休んだ。結さんに少し体調が優れないから今週末のギターの練習は休みたいと伝えた。

何かを悟ったのかこんなのLIMEが飛んできた。


「なんかあった?なんでも話聞くよ」ら
僕は怖くなって大丈夫ですと返した。

 


親が夕方帰ってきたら、急に部屋に入ってきた。

「あんたのクラスに太一って子がいなかったっけ?昔から正樹が仲よかった」

「ああ、いるけど」

母親が買ってきたばかりのコンビニの夕刊を手渡した。

 

高田馬場で通り魔発生!2人死亡、10人重軽傷。犯人は都内の高校3年生 ー

今日午前10時半頃高田馬場駅前ロータリーにて鈍器のようなものを急に振り回して殴りつけ、2人を死亡、10人を重軽傷させた疑いで 東京千代田区在住の高校三年生 の少年を逮捕した。少年は 全部どうでもいいと思ってやったと供述している。警察は動機や事件に至った経緯などを慎重に調べている

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「これニュースになっていると思うけど、太一くんの家がマスコミとか報道陣に囲まれているの、テレビにもお母さんがモザイクで映ってたし。。。」


僕は豹変してしまった彼の姿になにも言うことができなかった。


「お母さん、ごめん、1人にさせて」

そう呟くと、母親は何かを悟ったのか静かに部屋を出て行った。


今日も一日中寝ていたがお腹は全然空かなかった。
お腹は全然空かないのに、満たされないの心に大きく開いた穴だった。


僕はまだ考えていた、あの時太一が俺のことをビンタした本当の意味を僕はまだ知らなかったんだと思う


親が寝た10時半ころ、僕は1人でコンビニに行った。やっぱりどの新聞も通り魔のことについて話題にしている。

友達からのLIMEはずっと既読無視していたが、全員に同じ内容を返すことにしよう


”明日は学校に行くから、心配しないで”

風が強く吹いた
 

 

 

 

 

 

 

”何も言わないのが、優しさだって思ってたんだよ”

僕の好きな kalff ってバンドの曲の歌詞が脳裏に浮かぶ。


1時間目が始まるのでイヤホンを外す。
授業をまともに受ける気はさらさらなくて今日も腕枕で授業を受ける


そろそろ受験対策の内容も増えて行くと言うのに体がついていかない。
隣の席の舞子が肩をトントン叩いて僕に呟く。

「次、刺されるよ、問2の3だから」

そう言うと舞子はまた前を向く

 

木下 舞子、部活は書道に入ってる。僕のクラスでは人一倍面倒見が良くてみんなからは”姫”と呼ばれている。小さな背の割に大きなポニーテールがよく似合う。


僕は焦ってその問題を解いて答える


僕はノートの切れ端に”ありがとう、姫”と書いて手紙の形にして隣の席に飛ばす。

 


休み時間になると数人が心配してくれて僕の席に色々お菓子やら飲み物やら持ってきてくれた。
僕は友達とかが本当にいなかったのでこの機会に連絡先を聞いたり、何気ない会話をして少し楽しかった


遠目で舞子も嬉しそうな顔をして微笑んだ。

 

みんなは太一のニュースについては何も触れなかった。廊下を歩くとたまにその話題を聞く

4時間目になってからやっと気づいた。
太 一の席が教室から消えている。


なんかどうしようもなく悲しい気持ちになった。


いつも1人で食べて、たまに太一と弁当を食べる僕は今日も1人で弁当を食べることにした。

けど、それを気にかけてくれたのか姫が四時間目終わってから声をかけてくれた。

「よかったら今日ご飯一緒に食べる?私も話したいことあるし」

僕はなんかうまく言葉にできなくて

「僕なんかでよかったら。」


そんなこんなで今日は舞子と席をくっつけて今日はご飯を食べることにした。

話して行くうちに月曜日のことを色々と話してしまった。

「なんで学校に七万なんて持ってきたの?

「笑わないって約束してくれるなら言う」

「笑わないから」

少し息を吸った

バンド組むことになって、ギター買いたいって思って」

舞子はお茶でご飯を流し込むと小さな声でクスクス笑った
「マサキがバンドって 本気?」
舞子がクスクス笑った


僕もなんかおかしくなって一緒に笑った

笑うたびに大きなポニーテールが小さく揺れて、すごい優しい匂いがした

ちょっと舞子のことが好きになった