流れ星の正体

根暗な主人公がフジロックを目指す話

第2話 犯人の正体

”人は手に入れているものより、期待するものを喜ぶ”
ジャン=ジャック ルソー

 

 

 

 

「こんな感じでいいですか?」
「もう少し襟足を短くお願いします」

僕は床屋に来ている、土曜日の朝一だ。
やっぱり朝が弱いけど、もちろんツリキャスのせいじゃない、最近バイトを始めたんだ

もともと学校終わったらゲームセンターに行くか家に帰って録画していたアニメを見るのが日課だった僕にとっては大きな変化だ

それよりも大きな変化はギター経験もそんなにない僕がバンドに誘われ、この後も結先輩の家にギターを練習しに行くんだ

学校ではいつも通りに振舞って、放課後や土日は別の人格で振る舞う、正直最近ストレスがすごい。

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襟足がだんだん短くなって来た
「はい、終わり。お疲れ様。」
そんな最近の事を考えていたら気づいたら終わっていた

「ありがとうございました」
そう言って店を出て、メールで教えてもらった先輩の住所を携帯で探して歩き始めた。
どうやらここから歩いて300mくらいのところにあるみたい


もしバンドをやっているなんて友達にバレたらどう思われるだろうか。「すごいね」「頑張ってるね」「応援してるよ」そう言ってくれる人がいくらいるだろうか?

バンドをやっている人を一歩引いて見てしまう人間はきっと少なくない。僕だけじゃないはずだ

中学や高校の友達に見つからないように周りに気を配りながら、狭い住宅街を行ったり来たりした。

「えっと、あいかわっ……と、この辺だよな?…」

「あ、見つけた」

白壁の小さな2階建ての一軒家に表札の”相川”の文字。僕の家はマンションだったので少しだけびっくりした。

インターホンを押したらすぐに先輩は降りて来た
「お疲れ様~迷ったでしょ?、どうぞ上がって」
迷ってねえよ、と心の中では少し強がっていたが何も言わず2階の結さんの部屋に入って行った

 

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それから2時間くらいギターを弾いたり、ノートを開いて音楽理論の勉強をした。なにかをずっと続けることが苦手な僕にとってはすごい苦痛なことだった。こういうのが楽しいって思えるほど本気にはまだならないのかもしれない

そんな僕の顔色を悟ったのか結先輩が
「疲れたよね?そろそろ休む?、下から甘いもの持ってくるからしばらくその辺でゆっくりしてて」

先輩は部屋を出て行った

こういう時に人の部屋の中をジロジロと見るのは悪いことだが、つい色々と見入ってしまった

ガタン
物音がした 

 

 

 

 

 

ガタン
物音がした

本棚から写真立てがおちた音だ
「これは…先輩?」
写真に写っているのはライブハウスでアコースティックギターで弾き語りをしている結さんの姿だ、少し若い。

階段を上がって来る音がした
僕は急いで本棚に写真立てを戻した

「お疲れ~待たせた?」
「いやいや、待ってないですよ、そういや先輩に聞きたいことが1つあって…」

結さんは不思議な顔をした
「ん?」
「どうしてベーシストなのにそんなギターとかギターボーカルにこだわるんですか?そうじゃないとこんな真剣に赤の他人に教えてくれないし」
「赤の他人なんかじゃないよ、もしかしてだけど…」

その場の空気が止まった

「…みた?写真立て」

度肝を突かれた
「いやいやいやいや、なんというかなんというか、ベースもできて、、、ギターもできるなんてすごいじゃないですか!ベーシストの部屋なのにアコギとエレキがあるなんてやっぱりなんかすごい人なのかなって」

焦ってちゃんとした言葉が出てこなかった


「見たんだね、まあいいよ。隠しておくつもりはなかったし。昔弾き語りやってたんだ、その繋がりで友達4人と集まってバンドを組んでたんだよ」

「なんで辞めちゃったんですか?」

「なんでというかなんというか、機材泥棒って言葉わかる?」

「機材ってギターだけじゃないんですか?」

「いやいや、バンドにはギターの他に、シールド、エフェクター、マイクとかなんかも機材で、リハーサルが終わったら楽屋に荷物を置いておくのね」

「はい、そこでですか?」

「うん、その時のベースが使っていたエフェクターが盗まれて、5万くらいするほんとに高いのだったんだ、ライブが終わった後他のバンドのやつが盗んだってことに気づいて、ベースのやつの怒りが止まらなくて、ライブハウスを信用できなくなったんだろうね、辞めちゃったよそいつは」

「でも他のメンバーは?」

「他のメンバーもその流れで全員、、、、その時思ったんだ。ギターボーカルで作詞作曲をやってた俺はバンドの中のリーダーにならなきゃいけない。なにか問題があったらそれを解決して運営して行くのがフロントマン、リーダーとしてその責任を果たせなかった、だからギターボーカルはやめたんだ」

写真立てに写ってた結さんの姿はすごい楽しそうだったのに、今の結さんは何か心の中に尖ったものを隠していそうで怖かった。

 

 

 

 

 

結さんが唐突に聞いてきた。
「友達の頼みってなんでも聞いちゃうタイプ?」
僕は少し悩んで答えを返した
「僕友達なんていないんでわからないです」

少し黙って結さんが言った

「正樹くんのいいところは信じて疑わないところ、けどそれが君の弱いところ」
僕は結構疑ってかかるタイプだけどどういうことだ?イマイチ答えが出てこなかった

「のちにわかるよ、夕方になってきたしもう終わりにしようか?」

その後に少し話した気がしたが覚えてない、僕は歩いて家に帰った、家に帰りながらずっと言葉の意味を考えていた。


家に帰るやいなや、ご飯も食べずに携帯の通知が来ていた「ツリキャス」を聞いていた。

「マサキ~ご飯よー」
お母さんの声がする、さっさとご飯を食べて配信を聞くとするか。
大好きな配信者「にっしー」の今日の配信企画は「凸待ち」だ。僕も一回だけ参加したことがあるが、配信サイト内の機能を使ってリスナーが配信者と通話ができる機能だ。人気の配信者だけあってなかなか通話することはできないが、今日先輩から言われたあの事で相談したくてご飯たべた後すぐに配信に潜って深夜過ぎまで粘ってみた

僕のハンドルネームは 「平成のカイジ」だ

にっしー「じゃあ今日の最後の凸待ちとしましょうか、じゃあコメント番号12540番の子に凸しようかな?」

さすがにこれで無理なら諦めよう。結局1人で考えれば済む事だ。

「コメント番号12540番、平成のカイジくん!上がってきていいよ」
コメント欄がざわつく

”ハンドルネームカイジとかwww”
”え、カイジ?誰?”
”上がってくるなよ害児、あ、カイジw”

うるさいうるさい、
「もしもし、平成のカイジです、にっしーさんですか?」
にっしー「そうですよ~、今日はどんな内容ですか?、口喧嘩?恋愛相談?歌?性癖暴露?」

僕「相談で…」
その後かくかくしかじか今日あったことを話した。

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にっしー「信じて疑わない事って裏目にでる事ってあるよね?例えばクラスの中で1番頭が良くて、運動できるやつとかでも影で悪口言っていたら、君の事「友達だよ」って言ってる奴が影で君の事笑い者にしてたり」

「そっかぁ…」

「ネガテイブに考えることはないよ、例えばの話だから!今日話凸してくれてありがとね」

携帯の電源を切った

時計は午前3時を過ぎていた。
やばい、このままじゃ寝坊

 

 

 

 

 

2日後の月曜日。
今日は久々に朝早く起きた。
学校の近くのコンビニのATMに寄るためだ


今日はバイト先の給料日。ギターを買うためにバイトをたくさん入れたので給料には自信がある。

さてどのぐらい入ってるかな
淡々とATMのボタンを押していく。
”7万2510円”

「やったぁ、買えるぞ」
店の中で小さな声でガッツポーズをした

なんだかんだで少し遅刻気味だったので急いでお金を下ろして学校に向かった。


それもあって1時間目と2時間目はぐっすり眠った


3時間目は体育だ。4月にしては季節外れのマラソン大会の練習と先生は謳っているがやっぱりおかしい

気づいたら休み時間後半だ。
僕は鍵当番なので出る前、最後に教室の鍵を閉めなきゃいけない。

まだ3人くらい残っている。

太一だ。

太一と友達数人だ。太一はクラスの人気者で、運動も得意で、女子にもモテる。僕みたいな人間の敵だ

勇気を出して声をかけてみた。

 

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「あの、まだいますか?」


「あ、マサキくん鍵当番だっけ?、俺ら少し用事あるから鍵渡してくれたら閉めとくよ、わざわざごめんね」


「あ、ごめんね。ありがとう」

太一に鍵を渡した。

まぁいいやと思い教室を出ようとすると

「そういや、正樹の席ってここだっけ?」

太一が僕の机の脇に立って言った。


「そうだけど?」

「いやいや聴いてみただけ、ありがとね」

なんだったんだ、とりあえずもう鐘がなって授業が始まってあるはずだ。急いで校庭へ向かおう。


そんなこんなでマラソン大会の練習は終わった。もともと長距離やってたってもあって半分よりも上だったが、バイトの疲れでヘトヘトだった。

疲れて座れこんでいるところを太一が手を取ってくれた。


太一とはそこまで仲がいいわけではないが、中学高校とほとんど同じクラスだった。学級委員長をやっているのが多いキャラだったので根暗な僕にいつも気にかけてくれた。


そのリターンとして、たまにする太一のお願いを聞いてあげるのが僕と太一の中での暗黙のルールである。

そう、僕と太一の中にはそれしかなかったのだ

ほんとにそれしか

 

 

学校が終わるまでは何もなかったのだ。


帰りのHR、急に教室のスピーカーが鳴り出した。

「3年1組、大原正樹。3年1組、大原正樹。至急生徒指導室まで来るように、以上。」

 

 

 

 

 

 

急いで生徒指導室にいくと何人かの生徒が僕のことを待っていたかのように立ち尽くしていた

「呼ばれた理由わかるよな?」
生徒指導の先生が表情を曇らせる

「なんのことですか?」

生徒指導室に雷が落ちた
「とぼけるんじゃねぇ、何人ものお前のクラスのやつがお金を抜かれたって言ってるぞ。しかも体育の時間だ。
お前は鍵当番だと聞いているんだが、その場に及んで盗みを働くっていうのはどういうつもりだ」


僕は怒鳴られるのに慣れていないので図星を突かれていないのに、図星を突かれたような表情になり、言い返す言葉も出なかった。

「じゃあ、僕が盗んだんだったら、僕の財布の中にお金が入っていますよね?財布の中見せますか?」

途端に浮かんだ言葉が出てきた


僕はバックの中の財布を開いた

「え」

「どうした早く見せてみろ」


「僕の財布の中のお金も抜かれてるんです、今日ギターを買うために70000円くらいATMで下ろしたんです。」

生徒指導の先生が呆れた顔をした。

「お前と同じ1組の三雲太一がお前が盗んだって言ってたぞ。それはどういうことだ?」

「僕は彼が教室出る前に、用事があるからって少し残るからって言っていたので彼に鍵を渡した んです」


生徒指導の先生が余計呆れた顔をした。
生徒指導室の中の空気がざわざわしていた。

これはどういうこと?
太一が盗んだってこと?

そんなわけないじゃん、
俺中学の時不登校になった時毎日家にノート持ってきてくれてたじゃん。
弁当忘れて何も食べるものなかった時、弁当半分分けてくれてたじゃん

友達いなくて修学旅行の班が1人だった時誘ってくれてたのも太一じゃん

嘘だ嘘だ嘘だ

とっさに口から言葉が出た

「太一は盗んでないと思います。きっと他に犯人がいるんだと思います。本人に直接聞いた方が早いので、確認してきます」

僕は教室に向かって走った。

気づいたらホームルームは終わって教室には誰もいなかった。

まだ昇降口にはいるはずだ、3階から急いで階段を飛びかけた。

昇降口には太一の姿がいた。友達3人で集まって帰るとこだ。

「ねえ、太一くん、聞きたいことがあるんだけど?」

「何?」

「みんなの財布からお金とったりなんてしてないよね?」

太一は笑って答えた
「もしも盗んでたらお前はどうする?」